2022年7月11日 12:00
突然ですが、あなたの住んでいる街、もしくは故郷の「郷土料理」ってなんですか? この質問にすぐ答えられる人はどれくらいいるでしょうか。かくいう私(栃木県出身)も、ついこの間まで「しもつかれ…? だったかな?」くらいの知識でした。そういえば昔、給食のメニューとして1年に1回出てきたな、そんなイメージです。でもデパートや駅の物産展で地元や出身地のご当地フェアがあると、不思議なことにちょっと覗いてみたくなっちゃうんですよね。
「ご当地タニタごはんコンテスト」は、日本全国に点在する郷土料理のレシピを「タニタが考える健康的な食事の目安」に基づき、現代風にアレンジして競い合うイベントです。すごく簡単に説明すると、“郷土料理をタニタ食堂っぽくアレンジしたレシピコンテスト”。郷土料理って、地域にもよりますが、けっこう味付けが濃かったりするんですよね。これをエネルギー量や塩分量に基準を設け、さらに定食形式の“タニタ流”にすることで、毎日でも食べたくなるようなアレンジレシピに。そして郷土料理をもっと身近に感じてもらいたいとの思いが込められています。
▲全国大会・審査の様子
2018年から始まった本コンテスト、もちろん今年も開催します! 現在レシピを募集中です。今年はこれまでの募集要項に加えて「免疫力と抵抗力のある食材をバランスよく取り入れる」ことをテーマに掲げています。ここ数年でよく耳にするようになった「免疫力」や「抵抗力」。郷土料理には健康なからだづくりを促進する食材や調理法などが多く使われていますが、本コンテストを通じて改めてクローズアップすることで、郷土料理の魅力を再発見するとともに、新たな可能性を引き出せればと考えています。
ここまででちょっとだけ、興味を持ってくださったそこのあなた! 「でも、どうやって作るの?」って思いますよね。そこで、これまでの受賞者の中から数組をピックアップし、どうやってあのレシピが生まれたのか、開発秘話を伺いました。コンテストはもちろん、きっと今日の夕飯の参考にもなる…かもしれません。
一組目は昨年第4回大会のグランプリチームです。郷土料理であることはもちろん、地域の食材やアイヌの食文化を取り入れたユニークなレシピで、見事グランプリに輝きました。美味しく食べて、文化を学べるレシピ、実は第3回大会からのリベンジ出場でもあります。構想に約1年(!)をかけた力作レシピ開発の裏側を、吉田 善哉さん、髙橋 千恵さん、東 定利さん(以下「北海道チーム」)の3名に伺いました。
▲エゾシカ肉のローストなど(カッコ内はベースとなった郷土料理)
左上から、サケのチタタプ(ルイベ)、エモ巾着(じゃがバター)、昆布飯&タラのオハウ(三平汁)、エゾシカ肉のロースト(シカ肉のユッケ)
―郷土料理のアレンジレシピを制作するにあたり、まず何からはじめましたか?
北海道チーム:第3回大会では、全国大会まで進んだのですが受賞はならず…帰りの空港でリベンジを誓いました。羽田空港のロビーで、来年は「アイヌ料理で勝負しよう!」と意見がまとまったので、そこをスタートと考えるならば1年かけてメニューを考えていたことになりますね(笑)。さらにメニューの候補のうちから、どの組み合わせにするかを半年がかりで考え、決まったメニューを試作しながら味と減塩のバランスを調整するなどに半月ほどかかりました。
▲左から、東 定利さん、髙橋 千恵さん、吉田 善哉さん
テーマを「アイヌ料理」に決めたので、まずは北海道の郷土の歴史とアイヌの文化を調べることからはじめました。2020年にオープンしたウポポイ(民族共生象徴空間)へ行ったり、色々な方から話を聞いたり…。何種類かのアイヌ伝統の料理法の中で、郷土料理として今も受け継がれているものと、これからの人たちに伝えていきたいものを選び、減塩や野菜の増量になる工夫を盛り込みました。アイヌの伝統料理が北海道の郷土料理にもなっていることから、お互いの良いところを組み合わせ、普段でも家庭で作ってもらえるレシピを考えました。
食材選びでは、北海道内外問わず思い浮かび、古くから変わらない北海道の食材である「鮭・いくら」「エゾシカ」「じゃがいも」「行者にんにく」「昆布」などをメニューに取り入れました。
飽食の時代で食品ロスが問題になっている今だからこそ、このレシピを多くの人に知ってもらうことで、アイヌの食文化にあるような、全ての物を無駄にしないで感謝して大切に扱う「人と自然と命に感謝」の心を次世代の方々に伝えていきたいと思っています。
▲受賞時の様子。ドレスコードの規定はありませんが、意気込みが衣装からも伝わってきます。特に力を入れたというプレゼンは、どんな人が見ても聞いても、わかりやすい内容や言い回しにこだわったそう
―レシピを見ただけで「北海道だ!」とわかるのが印象的です
北海道チーム:今回の主菜となる「エゾシカ肉のロースト~大地のソースを添えて~」は、その名の通り、エゾシカ肉を使っています。ベースとなる郷土料理は「シカ肉のユッケ」ですが、一般の方にはあまり馴染みがないと思い、万人受けするようにローストでの調理にしました。アイヌにも北海道にもかかわりが深いエゾシカですが、鹿の食害とそれに対する活用法を知ってもらいたかったので主菜の食材に採用しました。シカ肉というと「硬い」「臭い」といったイメージを持たれる人もいらっしゃいますが、エゾシカ肉は実はとても美味しく、低脂肪、高たんぱく、鉄が豊富など栄養価の高い食材であることを伝えたいと思い取り入れました。
アイヌ語を使った料理名はもちろんですが、普通なら廃棄される部分を包丁でたたいてたたいて何とか食べられるようにしていた「チタタプ」、厳しい冬を乗り越えられるよう身体を温めるエネルギーにもなる油を調味料にしていた「オハウ」など、アイヌの食文化をレシピに反映させています。
―郷土料理を、いわゆる“定食スタイル”にするにあたり、苦労した点、今だから話せることは
北海道チーム:全体の色味、見た目のバランスと食べた後の満足感を考えた分量バランス(昆布飯の量と肉やソースの配分量など)に苦労しました。美味しく食べられる組み合わせと分量のバランスは最も悩みましたね。特に、エゾシカ肉のローストに添えたソースは見た目と味を両立させるため何度も試行錯誤を重ねました。皿などの器や盛り付け方にもこだわって美味しく見えるように工夫しました。
▲書類応募時の写真
―エネルギー量や塩分量を抑えるコツは?
北海道チーム:アイヌの食文化では「油」を多く使う料理がありますが、それだとカロリー(エネルギー量)が高くなってしまいがちなので、比較的低カロリーの鹿肉をメインにすることで抑えました。特にじゃがいもは、北海道らしさがあって低カロリーなのに、食べて満足感があります。塩分量に関しては、主菜の「エゾシカ肉のロースト」に使用しているソースも行者にんにくと粒マスタードをふんだんに使うことで、減塩でも美味しくなる工夫をしています。アイヌの人たちの自然の恵みを敬うという考えから作られた「サケのチタタプ」では昆布やしそを使い、出汁や香りを利かせることで塩分の使用を抑えました。三平汁をベースにした「タラのオハウ」も肝油を調味料として使うことで、コクが出るように考えたアイヌの人の知恵を取り入れています。
北海道チーム:「エモ巾着」の「エモ」はアイヌ語で「イモ」を意味しています。ちなみにこのレシピはみなさんご存知の郷土料理「じゃがバター」をベースにアレンジしたレシピです。このレシピ、実はエネルギー量を抑えながらお腹を満足させるために入れました。北海道といえば「じゃがいも」を思い浮かべる人も多いと思いますが、そのじゃがいもも、男爵やメークイン、きたあかりだけではなく、たくさんの種類や特徴があることを知ってもらいたくて。普通のじゃがいもでも美味しいですが、ピンク色のノーザンルビーという品種のじゃがいもを使ったことで、とても可愛らしく仕上がりました。普段はおやつとして作っていたのですが、今回は味のバランスを考えて、甘味ではなくチーズを使い、おかずの一品としました。
エモ巾着
(1人分)エネルギー量:39kcal、塩分量:0.1g
<材料>
じゃがいも(ノーザンルビー):30g
ナチュラルチーズ カマンベール:5g
黒こしょう:0.1g
<つくりかた>
①ノーザンルビーを約1cm大のさいころ切りにし、茹でて熱いうちにつぶす。
▲今回はお皿ですが、笹の葉にのせると、ぐっと雰囲気が出ますよ(写真は2人分)
アレンジレシピは、2022年8月31日(水)まで募集中。全国5ブロック(北海道・東北、関東・甲信越、中部・近畿・北陸、中国・四国、九州・沖縄)で書類審査による予選を行い、全国大会に出場する15チーム(レシピ)を選出。2022年11月20日(日)に服部栄養専門学校(東京)で全国大会を開催し、グランプリと準グランプリを決定します。グランプリには賞金50万円を授与し、上位入賞チームには商品化に向けたサポートを実施する予定です。詳細は「ご当地タニタごはんコンテスト」のURLよりご確認ください。今年もたくさんの独創的なレシピに出会えますように。
受賞時のインタビューもぜひご覧ください!
Text:合同会社サウザンスマイルズ